美しい重ねとは何か - ニコメドアドカレ2025
ニコニコメドレーにおける「綺麗な重ね方」について私の気をつけている事や考えうる技法を解説します。
この記事はニコニコメドレーシリーズ Advent Calendar 2025 に参加しています。遅れてごめんなさい。
はじめに
ご存知の方もいるかもしれませんが、私は曲と曲を『重ねる』こと、一般的には『マッシュアップ』と呼ばれている行為をするのが大好きです。
拙著のニコニコメドレーでは音MAD合作向けの作品等を除けばほぼ確実にどこかしら重ねが入っていたり、そうでないメドレーは後から重ねマシ版を作ったりしています。味変みたいな感じか?
ニコニコメドレー以外でも、最近はDJをする時にマッシュアップの音源を作って流したりしています。 (ただし、この場合はインスト×ボーカルになる事が殆どなので、2曲のボーカル/リードを同時に流すニコメド的な『重ね』とは意味合いが若干異なるかも)
本日のセトリです!ありがとうございました!!! この後投稿されるメドレーもよろしくね #ヴォイナゴ pic.twitter.com/XsiqJBgAbm
— ウボァー (@_uboar_) December 14, 2025
今回は実例として拙著からの引用を実例として交えつつ、私がニコニコメドレーにおいて重ねを行う際に気をつけていることや使っている技法を解説できればと思っています。
ただし
本稿では、選曲が持つ文脈によって生まれる重ねの良さ・深みについては一旦脇に置いて、音楽的な部分にフォーカスを置いて話したいと思います。
超前提
重ねは『邪道』である
世間一般的に曲と呼ばれている物の多くにおいて、同時に存在する主旋律は一つのみです。重ねを行う際は、その王道からあえて外れているという意識と覚悟を持って臨みましょう。
王道を知らぬ者に邪道は進めません。いきなり精神論かよ!
あと、嘆かわしい事に人間は初聴きで二つ以上の主旋律を同時に聞き取る事が出来ません(重度のニコメドリスナーでも無い限り)。
重ねにおいて曲同士に優先度が発生するか決める
私が重ねをすると決めた際にまず考慮する事が、「曲同士に優先度が発生するか」です。
つまり、2曲を重ねる場合その関係性が「主・副」か、「主・主」になるかという事になります。
最終的にはメドレーの展開・選曲や曲自体の特性を考慮して決定しますが、普通の曲におけるオブリガートの役割を引き受ける事が出来るので、基本的に優先度が発生する方が打ち込みにおける自由度は高いです。
空間における一点に曲を重ねない
X軸がパン、Y軸が周波数です。
主旋律が1つの場合はパンを振らずに配置する場合が殆どですが、重ねを行う場合に(音域の事を考えずに)そのまま適用してしまうと、非常に聞き取りづらく、同時に聞き苦しい状態になってしまいます。ミックスの観点から見ても基本的に避けるべきです。
では、このような状態を避ける為にどのような対策を講じるべきでしょうか?次項から具体的な内容を解説していきます。
ここを考えるのが個人的に重ねの本当に面白い所だと思っています。
曲の置き方
1.音域を分ける

おすすめの方法その1です。
主旋律の左右のバランスが取りやすい為、聞きやすさと聞き取りやすさを両立するのが比較的容易です。
注意点として、旋律の動き方によっては音が重なってしまったり、不協和音が生まれてしまう事があります。
また、「主・主」の優先度で重ねをする場合、聴覚的に女性ボーカルの音域に近い方が目立つ傾向がある為、考慮しながらミックスする必要があります。同時に、中央の音域の多くを主旋律が占めてしまう為、伴奏のパン振りを気持ち増やしておくと良いと思います。
実例
- 『ANOTHER DISCRETE POINT』クモヒトデのうまる砂の上で×ロマンス(4:19~)
- 前半と後半でオクターブが入れ替わり、同時に「主・副」の関係性も入れ替わる
- 『ANOTHER DISCRETE POINT』バッハの旋律を夜に聴いたせいです。×うらみ交信(5:17~)
- 男性ボーカル×女性ボーカル
2.片方の音を左右に広げる

おすすめの方法その2です。
ステレオエンハンサーやダブラー等を使って片方の音を左右に広げ、パン方向で棲み分けをする手法です。アレンジの幅が取りやすく、聴いていて楽しい重ねです。
重ねる2曲の音域が近く聞き取りづらい時は更にMS処理でMIDを下げる等してあげると良いかもしれません。
また、広げる方の音をSupersaw等の太い音色やコーラスの入ったボーカル(≒ユニゾン数が多い)、中心に置く方の音を芯のある音色(≒ユニゾン数の少ない)にすると更に映えるのでおすすめです。
注意点として、特にダブラーを使用した際、モノラルで聴いた時に音が消える(波形の打ち消しが発生する)事があります。ミックス時にモノラルで確認しておくのが良いと思います。
実例
- 『ANOTHER DISCRETE POINT』メモリーズ×りそうのせかい(2:52~)
- メモリーズ側を2人ボーカルでユニゾンさせ、左右に広げている
- りそうのせかいが入った時にボーカルのパンを更に広げて中央に場所を作っている
- 『ニ鼓動 -NICONICO HEARTBEAT-(Secret Ver.)』カツオノエボシ×みゃー姉以下略(13:02~)
- 太いシンセと芯のあるシンセの重ね
余談:音を広げる時によく使うプラグイン
- TDR Proximity
- 左右で音をずらす事が出来る、ハース効果的にも使える、無料
- Legacy Productなので代替を探したほうがいいかも
- iZotope Vocal Douber
- 無料、使いやすいボーカルダブラー・コーラス
- DOTEC-AUDIO DeeField
- コーラスやリバーブ感は出したく無いけど左右に音を広げたい際に非常に重宝する
- UAD Brigade Chorus
- これだよこれ!!!ってコーラスの音
3.左右にパンを振る

思いつく限りでは一番最初に出てきそうな手段ですが、実はトップクラスに難易度の高い重ね方です。基本的に重ねの関係性が『主×主』の場合のみ使えます。
具体的に注意点を挙げますが、非常に多く、聴覚上も気になってしまう点ばかりです。
- 重ねている曲のリズムや音域が違いすぎると、定位が左右どちらかに寄ってしまう。
- 同じ音色を使用して重ねると、同じ高さのノートが発音された際一時的に中央に非常に強いモノラルの音が生まれたり、うなりが発生する。
- 同じ音色を使用する際はわずかにタイミングをずらしたりシンセであれば位相を変えたりするといいかも。
- パンが狭すぎると聞き取りづらくなり、広すぎると違和感が増す。
- ボーカル同士の重ねであればそれぞれ8~15%程度のパン振りでも充分聞こえる場合が多い。
- パンを広く取りたい場合は中央にオブリガートやコード楽器を置いておくと多少安定する。
- 主旋律を左右に置くという事はその音域を担っていた別の楽器の居場所を奪う。主旋律が増えたり減ったりする事の影響を鑑みながら適宜楽器の配置やミックスバランスを変えていく必要がある。
難易度が非常に高いだけに、上手く決まった時の感動はダントツだと思います。是非挑戦してみて下さい。
実例
- 『ANOTHER DISCRETE POINT』 AIAIAI×ヤツメ穴(03:49~)
- 主旋律同士の開始終了が一致
- 『ANOTHER SPIN POINT』アンチグラビティーズ×花一匁(00:42~)
- アンチグラビティーズの「献立『も』」と花一匁の「わかってて『も』」で歌詞のモーラが一致
重ねを彩るもう一押し
思い切って主旋律をアレンジする
重ねをする時に非常に大きな悩みの種が、『曲のキメポイントが合わない』『終わりのタイミングがズレてダサくなる』等の、曲同士のリズムが異なる事に起因する気持ち悪さです。
もちろん素で綺麗に重なる曲を探すのも一つの醍醐味ですが、ここは思い切っていっその事主旋律をアレンジして、気持ちよく重なるようにしてしまいましょう!音楽は自由です。
実例
- BEFORE:『CHAOS_』Os-宇宙人×不革命前夜(2:34辺り)
- 「好き」と「ほら何も言えず青に溶けてく」が合っておらず、不完全燃焼感がある(後ろの構成でカバーしていると信じたい)
- AFTER:『ANOTHER SPIN POINT』Os-宇宙人×不革命前夜(4:57辺り)
- 「好き」のタイミングをずらして「ほら何も言えず青に溶けてく」に合わせた
主旋律以外も積極的にコラボさせる
曲を構成するのは主旋律だけではありません。耳コピは大変ですが、原曲を原曲たらしめるベース・コード・パーカッション・その他諸々をメドレーに取り込み、それすらも重ねてしまう事で、メドレーとしての魅力をより深くする事が出来ると考えています。
実例
- 『コトノハ / リコネクション』pop enemy→Digital Life Hacker(3:03~)
- 伏線としてDigital Life Hackerのギター・主旋律を先行で入れている
- 『ANOTHER DISCRETE POINT』メモリーズ→りそうのせかい(3:07~)
- メモリーズのボーカル終わりをりそうのせかいのバックコーラスに繋げている
- りそうのせかいの間は後ろでずっとメモリーズの間奏が流れている
- 『ウタ→インテグレーション』恋とキングコング×如月アテンション(1:56辺り)
- 両曲のオブリガート同士を交互に重ねている
まとめ
重ねないと死ぬ。